自然の恵みの中で暮らすこと  米川 正利(山小屋生活50年、黒百合ヒュッテ主人)

その2 高山植物が教えてくれる季節

山の春は遅く、6月になって残雪が解けて梅雨に入るころ、高山の花々が咲き始めます。梅雨は森の木々や草花にとって大切な恵みの雨で、冬の乾き切った森に潤いを与えてくれます。凍った土を解かし地熱を与え新しい芽に精気を蘇らせます。木々が芽生えると、冬の間下界に下っていた動物たちや小鳥たちが森に戻ってきて、森は大変な賑わいになります。

小鳥たちではメボソムシクイ、コマドリ、キクイタダキ、ルリビタキ、ウグイスなど。朝早くから夜まで鳴きどおしです。特に5月、6月は子作りの季節なので一段と騒がしいです。

花の開花で1番乗りは、ヒメイチゲでしょうか。 白い6片の小さな花で、うっかりすると見落としそうです。この花が咲きだすと、先を争うように色んな花が咲き出します。白花ではコミヤマカタバミ、ツマトリンソウ、ミヤマオオレン、オサバグサ、ゴゼンタチバナ。ピンク色はコイワカガミ、リンネソウ。黄花で岩場に咲くキバナシャクナゲ、イワウメ、ツクモグサ。

6月はこの花に、7月に入ったらあの花に逢わなくてはと、忙しい日々が続きます。花々の開花は時期を待ってくれません。その時を逃したら次の年まで逢うことができません。特に最近、地球の温暖化が進み高山帯の氷河期時代の植物が亜高山帯の植物に侵略され、絶滅の危機にさらされています。もう二度と会えなくなることもあり得ます。最近ほとんど見かけなくなった花では、ホテイラン、オキナグサ、ヤマシャクヤクなど、たくさんあります。偶然にも希少植物を見つけることができた時は最高の感激で、心配りをして保護することも必要です。

高山植物は花によって場所を選びます。森の中で咲く花(ランの類)、草原に咲く花(ユリの類)、日当たりのよい稜線で咲く花(キンポウゲの類、シャクナゲ)、砂礫地や岩場に咲く花(コマクサ)。一厘で咲いていたり、あるいは群落だったり。それぞれが違うので、どの場所にはどんな植物が咲くのか事前に調べるのも楽しみの一つです。7月から8月の中旬頃までが高山の花の最盛期で 、ほとんどの花が鮮やかに咲きそろいます。8月下旬にトウヤクリンドウ、アキノキリンソウなどが咲き始めると、もう秋の知らせです。6月、7月、8月とそれぞれの花が咲き季節を教えてくれます。9月には霜が降りて紅葉が始まり、10月には新雪が来て冬の始まりを告げ、11月から長い冬の始まりです。

余りにもめまぐるしい一年の四季の移り変わりです。

 

(次回へつづく)


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