自然の恵みの中で暮らすこと  米川 正利(山小屋生活50年、黒百合ヒュッテ主人)

その1 自然の中の仲間たち

私は、八ヶ岳で山小屋を経営して、早や50年になろうとしています。 現在は息子達に山小屋を譲り、時々顔を出すだけで山麓での生活が多くなりました。
長い年月、一年を通して山小屋に入り自然の中で生活することは、楽しさもありましたが厳しさもたくさんありました。夏の山を揺るがす雷雨や風速50mの台風、冬の−30度の寒気と猛吹雪の恐ろしさは、下界で生活をしている人々が想像できない過酷なものでした。
一方、自分の心の安らぎや楽しさは、山へ登ってくる大勢の登山者と気兼ねなく一晩中語り明かしたこと、山菜取りやきのこ取りをしながら一緒に歩いたことでした。また、私一人で何日も山小屋にいるときには、山や森をゆっくり散策することでした。山の中では、沢山の自然の中の仲間や友達が出来ました。

空を流れるいろいろな雲であったり、山や森、岩や木々、高山の可憐な花々であったり。森の動物達で大きな仲間は、ツキノワグマ、カモシカ、ニホンジカ、イノシシ、小さな仲間は、キツネ、タヌキ、テン、アナグマ、モモンガ、リス、オコジョ、ノネズミや小鳥達などでした。いつも一方通行で私が話し掛けるだけですが、それでも楽しいもので、次から次へと会話が出てくるものです。
可憐な花々だったら「こんにちは、今年も元気ですか、又お会いしましたね、今年は開花が遅かったですね、いつ頃までお会いできるかしら・・・」と限りなく話しかけます。たまには相手が何か答えてくれそうで、ずっと待っていることもあります。走っている動物が私を見て立ち止まってくれるだけでも、心が通じたような気がします。

最近、ナイトウォークで夜から明け方まで仲間で歩く人が多くなりましたが、私の若い頃も一人で星を観察しながら歩いたものです。
山の稜線で満天星の見える場所へ陣取って、寝袋かツエルトに潜って、岩陰やハイマツの中で見たものです。ハイマツの中は暖かくて、雨が降ってもしのげるので快適でした。それにハイマツの実を食べに来るヒメネズミが可愛くてよく遊んでくれました。自分が持っているお菓子をあげることで、ヒメネズミの宿を借りた一宿一飯の恩義をなんとなく返したような気持ちになったものです。


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